
キャリア教育
学校から仕事・社会への移行を、個人と社会の関係から考える
教育学講師kiki
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本講の中心問題:将来を決める力と、選べる条件
仮想事例
高校生が「将来の仕事はまだ決められない」と相談した。教師は早く職業を決めるよう促したが、生徒は、学費や地域の仕事、家族の事情、大学で関心が変わる可能性も気にしている。
この相談には、自分の興味や能力を知ることとともに、社会を理解し、生活上の役割を考え、選択に必要な条件を確かめることが関わる。
なぜ学校で扱うか
学校から仕事への移行、雇用との接続
キャリアとは何か
生涯の役割、発達、自己理解
何をどう育てるか
基礎的・汎用的能力、体験、振り返り
何を社会的に保障するか
労働者の権利、選択可能性、支援
到達目標は、進路選択に必要な理解や能力を説明し、その希望や判断がどのような経験と社会的条件の下で形成されるかを考えられるようになることである。
学ぶ順序:Ⅰ 学校から仕事・社会への移行と日本の政策史 → Ⅱ キャリアの意味と発達理論 → Ⅲ 能力・体験・振り返り → Ⅳ 選択を支える権利と条件 → 自分で説明する。
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Ⅰ 学校から仕事・社会へ:移行が教育問題になる理由
学校と仕事の接点
近代の学校制度は、子ども・若者が主として学ぶ期間を設けた。卒業後に、学んだことを職業生活へどう結びつけるかが、進路指導の課題になる。
学校から仕事への移行(School-to-Work Transition)
学校を離れて職業生活へ入り、働き続けたり、学び直しや転職をしたりする過程を捉える。就職先が決まった時点だけでは捉えきれない。
成人期への移行(Transition to Adulthood)
収入、住まい、家族との関係、社会参加など、生活を形成していく過程が重なる。これらが同じ時期・順序で進むとは限らない。
教育学の問い
本人の自己理解・能力形成と、学校、企業、家族、福祉・労働制度がつくる移行の条件を、どのように結びつけるか。
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日本の学校から仕事への移行を支えた仕組み
現在地|Ⅰ 学校から仕事・社会への移行と日本の政策史
高度経済成長期以降の日本では、学校を経由して卒業時に企業へ入り、入職後に職業能力を形成する仕組みが広がった。学校での学習と企業での育成は、どのような分担で結びついてきたのだろうか。
新規学卒一括採用
卒業時期に合わせて新規学卒者を採用し、入職後に育成する慣行である。
企業内教育
OJTは実際の業務を通した育成、Off-JTは通常の業務から離れて行う研修である。両者は、通常の業務との関係によって分けられる。OJTは業務のなかで学び、Off-JTは業務から離れて学ぶ。
学校との接続
特に高卒就職では、学校と企業の継続的な関係や、学校による推薦・相談が、就職への移行を支えてきた。
解説メモ|雇用の仕組みが、学校と企業の教育を関係づける
入職後の企業内育成を想定する場合、学校で一般的な学力や態度を育て、企業で職業固有の技能を学ぶという分担が生じやすい。入職時に特定の技能が求められる場合には、学校の職業教育と採用とのつながりが重要になる。ただし、長期雇用や企業内育成の機会には労働者による違いがあるため、どの人々がどの仕組みに支えられてきたかを確かめる必要がある。
参考:原教材の学校・企業・教育訓練の関係。留学生のための日本教育学入門ー基礎知識から最新動向へ
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学校斡旋と一人一社制:保護と選択の関係
現在地|Ⅰ 学校から仕事・社会への移行と日本の政策史
高卒就職では、企業からの求人と、学校による相談・推薦、選考日程などを組み合わせて、生徒の就職を支える仕組みがある。
一人一社制
一定の応募段階で、一人が同時に応募する企業を一社とする慣行である。運用や複数応募へ移る時期は、地域の申し合わせ等によって異なり、全国一律の法律上の規則とは区別する。
二つの側面
学校が求人情報の提供や企業との調整を担い、経験の少ない生徒を支える。
学校に届く求人や推薦方法によって、本人が比較・探索できる選択肢が限られる場合がある。
解説メモ|応募の自由と、比較・判断を支える相談を結びつける
応募先を自由に選べる範囲が広がると、求人を比較する情報や相談の必要性も増す。学校の支援を利用してきた生徒が、新しい仕組みのなかでも納得して判断できるかを検討する必要がある。JILPTの事例研究でも、高卒就職の仕組みが、生徒の納得を高める方向へ調整されてきたことが示されており、本人・学校・企業の関係から変化を捉えられる。
出典:JILPT労働政策研究報告書No.201ほか。労働政策研究・研修機構
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Ⅰ 移行の変化:1990年代以降に何が問題になったか
新卒時の就職に依存する仕組み
学校経由の就職と企業内育成は、卒業から仕事への移行を支えてきた。ただし、長期雇用や育成の機会は、企業規模、雇用形態、性別などによって異なっていた。
景気・雇用の変化
1990年代の景気後退と新卒採用の縮小、非正規雇用の広がりなどにより、卒業時に安定した仕事へ入ることが難しい若者が増えた。最初の就職機会が、その後の学習・就業機会にも関わる。
学校に生じた課題
進学先や就職先を決める指導に加え、仕事の情報を理解し、選び直しや相談を行い、生活を組み立てるための支援が必要になった。
政策への接続
こうした学校と職業生活の接続問題を背景に、1999年答申はキャリア教育を提起した。若者の意欲だけでなく、求人・育成・労働条件も確かめる。
出典:JILPT「日本的高卒就職システム」の変容と模索(2008)、文部科学省・2004年報告 第1章「キャリア教育が求められる背景」、JILPT「教育から職業への移行の変容」。
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日本の政策展開:学校教育全体でキャリア発達を支える
現在地|Ⅰ 学校から仕事・社会への移行と日本の政策史
政策の前史
1927年の文部省訓令は、個性と環境を踏まえた職業・上級学校の選択指導を求めた。キャリア教育という名称以前から、学校には進路を支える実践があった。
1999年
中教審答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」がキャリア教育を提起。進学・就職に至らない若者や早期離職を接続の課題として捉え、小学校段階からの支援を求めた。
2004年・2011年
2004年報告が推進の考え方を示し、2011年答申がキャリア教育・職業教育の定義と基礎的・汎用的能力を整理した。
2017〜2018年改訂・2020年度
特別活動を要に学校教育全体で進める方針を明確化し、2020年度からキャリア・パスポートの活用が始まった。
解説メモ|教育で担うことと、社会制度で支えること
学校は学びと仕事・生活を結びつける理解と能力を育てる。求人、雇用条件、企業内育成、生活保障も移行に関わるため、困難を本人の準備不足だけに帰さず、教育と雇用・福祉の役割を関連づける。
出典:文部科学省「児童生徒ノ個性尊重及職業指導ニ関スル件」1927年訓令、文部科学省・2004年報告 第1章、中央教育審議会・2011年キャリア教育・職業教育答申、文部科学省・学習指導要領関連資料。
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Ⅱ キャリア・キャリア教育・職業教育を区別する
現在地|Ⅱ キャリアの意味と発達
キャリア(Career)
人が生涯にわたってさまざまな役割を担い、その役割と自分との関係を意味づけていく積み重ねを指す。仕事の経歴を含め、生活全体との関係から捉える。
2011年中央教育審議会答申の定義
キャリア教育は、一人ひとりの社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育である。
関連する活動
主な焦点
進路指導
自己理解、進路理解、選択、移行等を継続的に支援する
職業教育
一定の、または特定の職業に必要な知識・技能・態度等を育てる
キャリア教育
学ぶこと・働くこと・生きることを関係づけ、発達を支える
解説メモ|進路を広げる支援と、選抜・配分の働き
進路指導は、本人の希望や能力を理解し、進学・就職の選択を支える。同時に、入試や求人の条件の下で、生徒と学校・職場を結びつける働きも持つ。現在の成績や学校に届く求人だけで候補を絞れば、本人が探索できる範囲が狭まることがある。相談や情報提供、選び直しを支える条件を整え、自立を一人で決めて責任を負うことに限定しない。続く理論では、選択・生涯の発達・変化への対応をそれぞれ捉える。
出典:中央教育審議会、2011年1月31日答申。文部科学省
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パーソンズ:自己理解と職業理解を対応させる
現在地|Ⅱ キャリアの意味と発達
フランク・パーソンズ(Frank Parsons)は、『職業の選択』(1909年)で、職業選択に関わる三つの要素を示した。
要素
内容
自己理解
自分の能力、興味、希望、資源、制約等を知る
職業理解
仕事内容、必要な能力、労働条件、報酬、見通し等を知る
両者の関係の検討
自分と職業についての情報を結びつけ、合理的に判断する
この考え方は、個人の特性と職業の要件を対応させる、特性因子論的な職業指導の基礎に位置づけられる。
解説メモ|検査結果を、経験と仕事内容に照らして考える
自己理解では、適性検査の結果を、関心を持った経験や力を発揮しやすい条件に照らして考える。職業理解でも、職業名から受ける印象を、実際の仕事内容や労働条件によって具体化する必要がある。三つの要素を用いると、自分と職業を対応させる際に、どの情報が不足しているかを整理できる。本人や仕事が変化する過程は、続く発達理論と関連づけて考える。
出典:Parsons(1909)の議論を示すTaber(2010)の研究解説。Wiley Online Library
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スーパー:生涯と生活空間からキャリアを捉える
現在地|Ⅱ キャリアの意味と発達
ドナルド・スーパー(Donald Super)は、キャリアを、生涯にわたって担う複数の役割の組合せと、その連続として捉えた。
二つの軸
ライフスパン:成長、探索、職業への移行、働き方の変更など、生涯を通して進む発達。
ライフスペース:学生、働く人、家族の一員、市民、余暇を過ごす人など、同時に担う役割。
どの役割に時間を使い、どの役割に意味を感じるかによって、仕事や学習の位置づけも変わる。
解説メモ|経験と役割の変化から、進路希望を捉える
大学で新しい学問に出会ったり、家族のケアを担ったりすると、仕事に求める意味や生活の優先順位が変わる場合がある。希望の変更をこうした経験と関連づけると、自己理解を更新し、役割の組合せを考え直す過程として捉えられる。キャリア教育では、その変化を振り返る機会を設けることができ、若者の移行、ケア、社会人の学び直しを考える視点となる。
出典:Super(1980), “A Life-span, Life-space Approach to Career Development”。DOI
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サビカス:変化に取り組む四つの資源
現在地|Ⅱ キャリアの意味と発達
キャリア・アダプタビリティ(Career Adaptability)
職業上の課題、移行、予期しない変化等に取り組むための、心理社会的な資源を指す。
Concern:関心
将来に関心を持ち、現在の活動と結びつける
Control:統制
自分の判断や行動に主体的に関わる
Curiosity:好奇心
自分や環境にどのような可能性があるかを探索する
Confidence:自信
課題に取り組み、必要なことを学べるという見通しを持つ
解説メモ|探索し、判断し、選び直すための資源を育てる
状況が変化したときには、情報を集め、相談し、選択肢を探し、必要に応じて方向を変えることが求められる。サビカスの議論を教育に用いると、将来を考える関心や、探索・判断を支える経験に注目できる。これらの資源を育てる取組は、本人が直面する社会的な障壁への対応とあわせて考える必要がある。
出典:Savickas & Porfeli(2012)、キャリア・アダプタビリティ尺度研究。DOI
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Ⅲ 能力・体験・振り返り
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基礎的・汎用的能力:四つを実際の行動から理解する
現在地|Ⅲ 能力・体験・振り返り
2011年答申は、社会的・職業的自立の基盤となる能力を、次の四つに整理した。
人間関係形成・社会形成能力
他者を理解し、協力しながら社会に参加する
自己理解・自己管理能力
自分の特徴や役割を理解し、行動を調整する
課題対応能力
問題を見いだし、情報を用いて計画・実行・改善する
キャリアプランニング能力
学び・仕事・生活を関連づけ、選択と見直しを行う
解説メモ|一つの経験のなかで、複数の能力が関わる
職場体験で疑問を持ち、働く人に質問し、学んだことから進路を考え直す過程には、課題への対応、他者との関係、自己理解、将来の計画が関わっている。四能力は、このような活動を異なる側面から捉える手がかりとなる。発達や経験によって表れ方は異なるため、全員に同じ行動を同じ時期に求めず、どの経験がどの理解や行動を支えたかを確かめる。
出典:2011年中央教育審議会答申。文部科学省
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学校教育全体で進める:特別活動を要とする意味
現在地|Ⅲ 能力・体験・振り返り
現行学習指導要領では、特別活動を要とし、各教科、総合的な学習・探究、学校行事等を関連づけながら、学校教育全体でキャリア教育を進めることが示されている。
学校段階
教育の重点の例
小学校
身近な役割、他者との協力、社会の仕事への関心
中学校
自己理解、社会・職業理解、体験と進路の探索
高等学校
多様な進路の検討、意思決定、移行に必要な知識と支援
大学では何を接続するか
2011年施行の大学設置基準改正では、教育課程と学生への指導・支援を通じて、社会的・職業的自立に必要な能力を培う体制整備が求められた。学部の専門教育と、履修指導・相談・就職支援を学内の組織間で結びつけることが課題となる。
解説メモ|教科や行事の経験を、生活と将来の理解につなぐ
特別活動では、各教科や行事で得た経験を振り返り、自分の生活や将来との関係を考え、次の行動に生かすことができる。教科と職業名を対応させる際にも、その知識が社会の何を理解するために役立つか、活動の経験が自分の役割の捉え方をどう変えたかを検討する。さまざまな場面での学びを、このように意味づけてつなぐことが「要」としての働きとなる。
出典:原教材の学習段階別キャリア教育及び政策整理。留学生のための日本教育学入門ー基礎知識から最新動向へ 追加出典:文部科学省「大学教育の質の保証・向上」
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キャリア・パスポート:過去の記録を、次の学習へ使う
現在地|Ⅲ 能力・体験・振り返り
キャリア・パスポートは、小学校から高等学校までの学習や生活について、見通しと振り返りを記録・蓄積し、自分の変化や成長を捉える教材である。2020年度から活用が始まった。
教育的な過程
経験を記録する
→当時の考えと現在の理解を比べる
→教師や他者と対話する
→次に試すことを考える。
解説メモ|目標の変化を、経験から理解する
小学校で書いた夢と高校での希望が異なるとき、過去の記録は、何に出会い、どの能力や価値に気づき、生活条件がどう変わったかを考える材料になる。スーパーの役割と発達、サビカスの探索の視点を用いると、希望の変化をキャリア発達の過程として検討できる。記録を教師との対話や次の活動に用いることで、本人が自分の経験を理解し直す機会となる。
出典:文部科学省「キャリア・パスポート」例示資料。文部科学省
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職場体験:仕事を経験し、その意味を考える
現在地|Ⅲ 能力・体験・振り返り
事前
仕事、地域、働く条件を調べ、自分の問いをつくる
体験中
作業、役割分担、知識・技能、働く人との関係を経験する
事後
予想との違いを考え、教科の学習や生活・進路に結びつける
仮想事例:福祉施設での体験
利用者に合わせた伝え方や専門知識、記録と職員間の協働、働く時間と負担など、仕事を成り立たせるさまざまな条件を学べる。
解説メモ|仕事への実感から、技能や労働条件の理解へ進む
「働く人は大変だと分かった」という感想を出発点に、どの作業が難しく、何の技能や支援によって仕事ができるのかを考える。働く人の役割への理解を、労働条件や制度の学習に結びつけることで、将来の判断に使える知識が得られる。体験後は、職業への好みがどう変わったかとともに、仕事や社会について何を理解したかを振り返る。
参考:原教材の体験活動と教科学習の接続。留学生のための日本教育学入門ー基礎知識から最新動向へ
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Ⅳ 選択を支える権利と条件
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選択できる条件:希望は社会の中で形成される
現在地|Ⅳ 選択を支える権利と条件
体験や振り返りが育てる力に加えて、その力を使って何を選べるかを考える。希望を本人の意欲だけで説明せず、費用や労働条件との関係を確かめる。
進路希望は、興味や得意なことに加え、家計、地域、性別による役割期待、家庭内の役割、健康、障害、言語等との関係のなかで形成される。
選択肢が狭まる過程の例
遠方への進学費用が高い
→候補を近隣の学校に限定する
→選べる分野が変わる
→本人が「自分にはこの進路が合う」と理解する。
解説メモ|本人の希望を聞き、その希望を支える条件を確かめる
本人が望む進路を難しいと考えていても、費用支援や別の経路を知ることで、実現の見通しが変わる場合がある。希望を尊重するには、本人が何を大切にしているかと、現在どの選択肢を可能だと考えているかを聞く必要がある。支援者が進路を決めることを避けながら、情報や支援を通して、本人が比較し判断できる範囲を広げることが課題となる。
参考:原稿の進路選択と社会的条件の議論。留学生のための日本教育学入門ー基礎知識から最新動向へ
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「権利としてのキャリア教育」と教育の職業的意義
現在地|Ⅳ 選択を支える権利と条件
児美川孝一郎は『権利としてのキャリア教育』(2007年)で、政策の問題点を検討するとともに、子ども・若者に必要なキャリア教育を権利として構想した。本講では、若者が生き方や働き方を考え、教育・情報・支援を得ることを重視する視点として用いる。文部科学省の公式定義や、独立した法律上の権利の名称とは区別する。
本田由紀の『教育の職業的意義』(2009年)は、仕事に必要な力を形成する「適応」と、不適切な条件を理解し問い直す「抵抗」の両面を扱っている。
解説メモ|仕事を担う力と、働く条件に働きかける力
職業技能は、仕事を選び、働き続けるための基盤になる。同時に、技能や意欲があっても生じる低賃金、差別、過大な負担については、その条件を理解し、自分や他者の権利を守るための判断が必要になる。本田の議論を用いると、仕事への参加を支える教育と、働き方の問題を捉え、条件に働きかける教育を関連づけて考えられる。
出典:本田由紀(2009)書誌・内容紹介、原教材の権利論。筑摩書房留学生のための日本教育学入門ー基礎知識から最新動向へ 追加出典:明石書店提供・同書紹介
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労働者の権利を、実際の判断に使える知識にする
現在地|Ⅳ 選択を支える権利と条件
学ぶ領域
判断に必要な内容
労働条件
契約、仕事内容、賃金、労働時間、休日等
職場での権利
安全、差別、ハラスメント、適切な処遇
生活の保障
社会保険、失業時の支援、学び直し
相談・行動
学校、労働相談窓口、労働組合等への相談方法
仮想事例
アルバイト先で、事前に説明された条件と実際の勤務が異なる。本人は、その困難を「自分の我慢が足りないため」と考えている。
解説メモ|出来事を整理し、知識を使って相談する
困ったときに権利に関する知識を使うには、何が起きたかを整理し、契約や記録を確認し、相談先を選ぶ経験が必要になる。社会的・職業的自立には、このように他者や制度を利用しながら判断することも含まれる。厚生労働省の教材は、就職前の生徒・学生にも、仕事で起こり得る問題を具体的に考えるための学習機会を提供している。
出典:厚生労働省の労働法教育教材の説明。厚生労働省
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早期離職から考える、教育と雇用の役割
現在地|Ⅳ 選択を支える権利と条件
厚生労働省が2025年10月24日に公表した、2022年3月卒業者の就職後3年以内離職率は、次のとおりである。
新規学卒就職者
3年以内離職率
高校卒
37.9%
大学卒
33.8%
キャリア教育上の問い
就職前に仕事の情報をどう理解して選び、入職後にどのような育成や支援を受けたのかを考える。そのうえで、労働条件や生活上の事情が、働き続けることにどう関わったかを検討する。
解説メモ|離職の事情と、その後の移行を捉える
離職には、仕事とのミスマッチ、労働条件、健康、家庭の事情、学び直しなど、異なる背景がある。よりよい条件を求めて選び直す場合もあるため、教育の成果を離職率だけで判断すると、必要な転職や相談の意味を捉えにくい。学校での準備教育を、入職後の育成・労働条件と、離職後の生活や再就職への支援につながる過程として考える。
出典:厚生労働省、新規学卒就職者の離職状況。厚生労働省
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2026年の審議:キャリア教育をどうつなぎ直すか
現在地|Ⅳ 選択を支える権利と条件
2026年5月25日の特別活動ワーキンググループでは、キャリア教育、学校行事、クラブ活動等について議論された。
主な検討課題
基礎的・汎用的能力と資質・能力の三つの柱をどう関係づけ、各教科、総合的な学習・探究、特別活動にどの役割を持たせるかが検討された。キャリア・パスポートについても、振り返りとしての目的と、記入・保存に伴う負担との関係が取り上げられた。
解説メモ|活動と記録を、学習者の経験に沿ってつなぐ
教科の目標、学校行事、進路指導、記録様式が別々に運用されると、生徒は経験のつながりを捉えにくく、教員にも重複した作業が生じる。どの活動で何を学び、どの場面でその意味を振り返り、次の選択に生かすかを整理すると、活動と記録の役割が明確になる。審議では、こうした教育上の目的と、学校で実施できる方法との関係が問われている。
本頁は、次期学習指導要領に向けた審議の紹介である。四能力やキャリア・パスポートの廃止・変更が決定したという意味ではない。
出典:特別活動ワーキンググループ第6回配付資料(2026年5月25日)。文部科学省
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キャリア教育から研究課題をつくる
現在地|Ⅳ 選択を支える権利と条件
進路未決定 決めていない状態は、探索の途中にあるのか、情報や機会の不足によるのか
職場体験 体験は、職業への印象と、社会・労働についての理解をどう変えるか
学校斡旋 学校の支援と、本人が比較・選択できる範囲はどう関係するか
ケアと若者 家庭内の役割が、進路や働き方への希望とどう関わるか
学び直し 経験による自己理解の変化を、教育制度がどう支えるか
実際の研究の入口
2026年の『日本労働研究雑誌』には、一人一社制と複数応募制に注目し、高卒者が就業地を選ぶこととの関係を検討した研究が掲載された。
解説メモ
この研究は、高卒就職の慣行を、若者がどの地域で働くかという選択に結びつけている。学校内の相談や推薦を、若者の移動と地域の人材形成との関係から考える問いである。自分の研究関心についても、本人の理解、学校の活動、制度、生活条件のうち、どの関係を明らかにするかを定めることで、検討する対象を具体化できる。
出典:坂口佳「高卒就職の慣行が就業地選択にどのような影響を与えるか?」『日本労働研究雑誌』2026年8月号(No.793)、公式要約。労働政策研究・研修機構
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演習・理論比較・論述
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複数選択問題1:適職を考えるために何が必要か
現在地|演習・理論比較・論述
本講座作成・仮想事例
学生Aは、適性検査で「対人支援職が向いている」と判定された。人と話すことは好きだが、実際の仕事に必要な資格や夜間勤務、記録業務については知らない。
選択肢を読む前に、この事例で「本人の理解」と「職業・労働条件の理解」の両方が必要な理由を一文で書く。各誤答は、パーソンズの考え方のどこを取り違えているか説明する。
パーソンズの考え方から、適切な支援を二つ選びなさい。
A.対人関係の経験や得意な場面を具体化し、仕事内容・条件の理解と対応させる。
B.検査結果が出たので、他の職業を調べる活動は終了する。
C.資格や労働条件は採用後に分かればよく、職業選択とは無関係とする。
D.本人の興味と、学習に使える時間や資源を含めて、職業との適合を考える。
E.職業が多様であるため、自己理解を進めることには意味がないと説明する。
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複数選択問題2:希望が変わることをどう捉えるか
現在地|演習・理論比較・論述
本講座作成・生涯役割の事例
大学生Bは、入学時には遠方で専門職として働くことを希望していた。その後、別の分野に関心を持ち、家族のケアも担うようになった。現在は、就職、大学院進学、地域で働きながら学ぶことを比較している。
スーパーとサビカスを手がかりに、適切な考察をすべて選びなさい。
A.希望が変わったことは、キャリア発達が止まったことを意味する。
B.学生、働く人、家族の一員という役割の組合せから、進路を考えられる。
C.新しい選択肢や支援制度を探索することは、好奇心や主体的な判断を支える資源に関わる。
D.自立を促すため、相談や家族への公的支援は検討しない。
E.本人が各選択肢にどのような意味を感じているかを尊重し、ケアと学習を両立できる条件も考える。
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複数選択問題3:記録を学習へつなげる
現在地|演習・理論比較・論述
本講座作成・実践の改善
学校では、毎年キャリア・パスポートに将来の夢を書かせている。前年と違う夢を書いた生徒は理由を求められるが、活動の経験や関心の変化について、教師と話す時間は設けられていない。
改善として適切なものをすべて選びなさい。
A.どのような経験を通して関心や自己理解が変わったかを考える問いを設ける。
B.記録の一貫性を保つため、卒業まで同じ職業名を書くよう指導する。
C.職場体験や教科学習の記録を、現在の希望と関連づけて振り返る。
D.教師との対話を通して、次に調べたいことや試したい活動を考える。
E.職業名が具体的に書かれていれば、キャリア教育の目標はすべて達成されたと判断する。
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複数選択問題4:早期離職を減らす授業案
現在地|演習・理論比較・論述
本講座作成・仮想材料
学校は早期離職を減らすため、礼儀、忍耐、自己管理を教える授業を計画した。卒業生からは、上司との関係に加え、契約と実際の業務の違い、長時間勤務、相談相手の不足についても語られている。
本講の考え方から適切な改善を二つ選びなさい。
A.学校で扱えるのは本人の態度だけなので、労働条件は授業に含めない。
B.仕事を担う力とともに、労働条件を理解し、問題が生じた際に相談するための知識を扱う。
C.退職しなかった人数だけを、教育効果の指標とする。
D.離職に至った事情と、離職後の学習・生活・再就職への支援も考える。
E.本人が困難を感じた場合は、職場の条件を確認せず、必ず退職することを勧める。
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複数選択問題5:理論を研究関心に使う
現在地|演習・理論比較・論述
本講座作成
理論と研究課題の組合せとして適切なものをすべて選びなさい。
A.パーソンズを手がかりに、実際の仕事を知る経験によって、生徒が自分と職業との適合をどう考え直すかを問う。
B.スーパーを手がかりに、学習者・働く人・ケアする人という役割が、学び直しの選択にどう関わるかを問う。
C.サビカスを手がかりに、職場の指示を無条件に受け入れる程度をアダプタビリティと定義する。
D.権利としてのキャリア教育を手がかりに、仕事を選ぶための情報や支援を得る機会が、家庭・地域の条件によってどう異なるかを問う。
E.基礎的・汎用的能力を、特定企業が採用したい人物像と完全に同じものとして扱う。
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経験の意味を捉え、次の行動へ進む
現在地|演習・理論比較・論述
解説メモ|決めていない理由に応じて、支援を考える
情報が少なく選択肢を知らない場合と、複数の可能性を探索している場合では、同じ「未決定」でも必要な支援が異なる。前者には経験や情報を得る機会、後者には比較や試行を支える機会が考えられる。本人がどの段階で何を検討しているかを捉えることで、決定を急がせることに偏らず、発達に応じた支援を組み立てられる。
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能力形成と社会的条件
現在地|演習・理論比較・論述
研究では、本人の変化を、教育経験と、学校・社会の仕組みとの関係から捉えることができる。
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小論文A:教育学共通基礎・データ型
現在地|演習・理論比較・論述
本講座作成/60分/1,000〜1,200字
2022年3月卒業者の就職後3年以内離職率
事業所規模
高校卒
大学卒
5人未満
63.2%
57.5%
100〜499人
36.7%
33.9%
1,000人以上
26.3%
27.0%
設問
この資料から見える違いを述べ、若者の学校から仕事への移行を支えるために、学校教育はどのような役割を担うべきか論じなさい。本人の能力形成と、雇用・生活条件の双方に言及すること。
数値だけから個々の離職理由は特定できない。表は、公式資料から一部の区分を抜粋したものである。
出典:厚生労働省、2025年10月24日公表。厚生労働省
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過去問演習B:早稲田大学・キャリア教育の課題
現在地|演習・理論比較・論述
早稲田大学大学院教育学研究科 学校教育専攻/2020年度/専門科目・設問Ⅰ(教育学)問題1(3)
原題
日本の高校や大学で展開されているキャリア教育について、指摘される課題を論述しなさい。
原試験の指示
以下の8題中、1課題を選び、論述しなさい。
本講で扱った現在の施策を用いる場合は、2020年の出題時点と区別して記述する。
出典:保管している試験問題「2020学校教育.pdf」設問Ⅰ(教育学)問題1に基づく整理版。
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